スヌーピーズ戦 『エース不在!?緊急登板の結果は…』

やるんダ!

勝つんダ!

超えるんダ!

V2ダ!



川崎宗則






ホトケ小学校3年1組

担任教師はミツイ

授業はホームルーム

今日の放課後のスヌーピーズ戦に向けて、学級会議が開かれていた。


黒板には、




シャクがいねぇーーーー!





ナカザキさんもいねぇーーーー!





ちなみに、ナカムラもいねえーーー!





ていうか、いらねぇーーーー!






との落書きが…。

要はピッチャーがいないのである。

シャクはスペイン語中崎さんはゼミ中村さんは不明

キムラは病み上がり

そして、相手のスヌーピーは強力打線で有名ときた。

この4人以外は、登板経験がほとんど皆無。

もはや絶望か…。


担任のミツイは水を打ったように静まり返る生徒たちに問いかける。





ミツイ「エースがいないのはしょうがない。

代わりのもんで埋め合わせるしかない。

よーし、今日の試合ピッチャーやりたいもんおるかー?」






肩が痛いっちゃねー



アニメ見たいっすよヘッヘッヘ



ムリムリムリ!えっ?聞いてない?そう…



ここまで、予想通りの返事…。

先日行われた学級委員立候補者募集での惨事を想起させる不人気。

マウンドは、学級委員同様、脚光を浴びるポジションだが、

人一倍責任が重いのもまた事実。

(ちなみに、学級委員はフナコシくんに押しつけられた。)

事なかれ主義が蔓延る現代の縮図のようなホトケ一同の返事。

が、しかし…









俺がやる!





!?





ミツイ 「ん?今、やりたい!言うた子、誰や?」



ニシオカ「先生ー!俺です!ヒーローになりたいんです!キヒヒヒ!」




おまえがいたかニシオカよ。

こいつだけは純真無垢な子供の心を失ってはいなかった。

いつもキラキラした目で語っていた。


オレはヒーローになりたいんや!


誰もが一度は目指すヒーローへの道。

しかし、誰もが大人の階段を上るにつれて、その道をあきらめる。

僕はヒーローになれない」と悟る…。

だが、ニシオカは違った。

だからこそ、ニシオカにはマスクをつけさせ、みんなと違う方向に座らせて、

目立たないように、自分を主張しすぎないように指導してきた。

野球を通じて、彼の可能性を限定していた。

悪に挑む心を閉ざそうとしていた。

先生をゆるしてくれ。





ミツイ  「よし!ピッチャーはニシオカに決まりや!がんばりたまえ!」



イケダ  「先生ー!キャッチャーはどうするんですか?」





一同   「なんだってー!?





ピッチャーが決まり、全てが丸く収まったかに見えた。

しかし、クラス一の秀才 イケダくんは異変に気付いていた。

キャッチャーのニシオカがピッチャーになるとキャッチャーがいなくなる

先生でも気付かない盲点をズバリと指摘するイケダくん

彼は大物になりそうだ。




ミツイ「よ〜し、キャッチャーやりたい子おるか?

おらんなら、先生がやるぞー。

ただし、フライとワンバンはムリやし、ランナーがいるときは直球オンリーや。

ついでに、パスボールはゆるしてくれよ。ふっはっはー。」


ドイ 「あ、あの…。ぼ、ぼく…」


ミツイ「なんだ?ドイ。どうした?トイレか?」




田舎からの転校生で、イマイチ都会に順応できず、

心に闇を抱えてしまったドイくん。

みんながグランドで野球をしてる時も、

教室の学級文庫を読みあさるのが彼の日課

「どうせ僕なんか…」「所詮、僕は僕ですから…」が口癖だ。




ドイ   「あの、ボク…。や、やりたいんです…。」


ウツノミヤ「なんや、何がやりたいんや?

殺りたい』んか『犯りたい』んかどっちや?

しゃあはっはーーーーーーーー!」




いつも周囲に卑猥な言葉を投げかけ、

薄気味悪い笑みを浮かべるウツノミヤ。

図書館で『保健体育』を愛読するだけあって、性の知識は中3レベル。

女子からの人気も最低、顔も子供とは思えない小沢一郎顔。

上記の発言から、廊下に立たされたのは言うまでもない。




ミツイ「ドイ。はっきり言うんだ!何がやりたいんだ!」



ドイ 「僕は…。僕は…。キャッチャーがやりたいんです!

みんなと一緒にスヌーピーズを倒したいんです!」





一同 「なんだってー!?




ドイの口から発せられた魂の叫び。

「僕はキャッチャーがやりたい!みんなと一緒に勝ちたい!」

思いもよらない発言に驚きを隠せないクラス一同。



そうかドイよ…。

おまえはみんなと一緒に野球がしたかったのか…。

いつも『かいけつゾロリ』ばっかり読んでるから、

学級文庫に新シリーズを補充したんやぞ。

先生はバカだよな。

おまえは『かいけつゾロリ』を読んでたんじゃなくて、

本を読むふりをして、グランドで楽しそうに野球するみんなを

窓から羨ましそうん眺めてたんやな…。

気付いてやれなくて済まなかった、ドイくん。




将来ある若い芽に水をやっていたつもりが、

その才能の芽を摘んでいたことに気付き、己の愚かさを悔いるミツイ。
しかし、後悔ばかりしている暇はない。

大事な試合は、すぐそこまで迫っている。

ホームルームは続く。



ミツイ「よし!キャッチャーはドイで決まりや!」





イケダ「先生!サードはどうするんですか?」





一同 「なんだってー!?







こうして、この不毛なやりとりが5、6回繰り返された末、スタメンが決まった。

不安』は確かにある。

しかし、『期待』もそれと同じ、いやそれ以上に大きいかもしれない。

負ければ終わりのトーナメント戦。

やるしかない。

絶対勝つ。

クラス全員が心を一つにした丁度その時、

6時間目終了のチャイムが鳴った。

グランドに向かうホトケ一同

試合は始った。







ホトケは初回、2つの四死球無死満塁の絶好のチャンスを作るも、

ミツイ・ドイ・ウツノミヤが沈黙し、無得点に終わる最悪のスタート



野球の試合には『流れ』というものがある。

攻撃で絶好の好機を逸すれば、当然訪れるのは『嫌な流れ

守備でエラーが起きたり、不運なヒットを打たれる確率が増す…。

しかし、そんな『流れ』を断ち切る2人が今日のホトケには存在した。




ニシオカ「普段の守備で、俺のハンサムフェイスを見られるのは、マスクを捨てるキャッチャーフライの時だけ。

しかし、今日は違う。

グランドの一番高く、一番輝く場所で、絶えずファンの目に俺が映る。

俺の美に酔いしれな!」




ドイ「僕は他のしょうもない1年どもと違って、ペラペラしゃべるのが好きじゃないんです。

奴らは出来もしないことを嘯いて、結局は言い訳の言葉を吐き散らかす。

カッコ悪いですよね。見苦しいですよ。

僕は僕のプレーで語りたいんです。

ブログで発言することは少ないですが、

例えば、『ドイがヒットで出塁』とかだったら、

ドイは熱き闘志を胸に打席に入り、そのバットで自らの情熱を表現した』くらいに読んでください。

今日の僕の発言、長くないですか?

どんだけしゃべらせるんですか?

キャラ設定間違ってませんかねー。

なんか5日分くらい、一気に喋った気がしますよー。





なんと、ドイが信じられないくらい長いセリフをしゃべっている間に、

試合は2回まで終了していた。

仮面を剥ぎ、鋼鉄の鎧を脱ぎ棄てた男が、マウンドで躍動する。

チーム1影の薄かった男が、冷静なリードで先輩を引っ張る。

これが見事にはまり、ポンポン、あっさりとアウトの山を築いていく。




しかし、3回、2つの四球で、2死1、2塁のピンチが訪れた。

外野陣は当然前に守る。

ヒットで、2塁ランナーが生還するのを防ぐためだ。



カシワギ「レーザービームしてぇー!」



レフトの神童は心の中で叫んでいた。

二次元に現(うつつ)を抜かすこの男、無類のレーザービーム好きでもある。

相手ランナーが2塁に来ると、いつも祈っているそうだ。


俺のところに打ってこい」と。


信じられない。


ミツイ・ナカムラ・フナコシ


ほんま飛んでこんといてや…。ムリやねん。こわいんや。


と、恐れおののいている…。


野球の神は残酷だ。

願わざる者たちに球を飛ばし、待ち望む者たちには球を飛ばさない。

こうして、あまたの得点は生まれてきた。(ナカムラの守備参照)

しかし、野球とは良くできたスポーツである。

たまに野球の神がほほ笑むことがある。

そんなとき、ファインプレーが生まれる。






キーーーーーーーーーーン!






打球は三遊間を抜けて、レフト神童のもとへ。

ランナーは3塁を蹴って、ホームに突入する。

神童が捕る。

神童が投げる。






ビューーーーーーーーーーーーン!






送球は、寸分の狂いなく、光速でドイに届き、ランナーは死亡した。

神童の願いが叶った。

レーザービームは完成したのだ。


2死で走者2塁打球を飛ばしてくれる打者3塁を蹴ってくれる走者


様々な状況が重なり合って初めて生まれた奇跡。


『奇跡』の状況で、神童から放たれたボールが描く『軌跡』は鮮烈に僕らの目に焼きついた。


上手いこと言ったところで、お後がよろしいようなのでレーザーの話を終わらせて下さい。

盛り上げ方がイマイチわかりません。

もうカシワギはレーザービームしないでください。




こうしたカシワギの好守や、4−6−3、6−4−3、4−4のハラダ・イケダコンビの華麗なゲッツーが炸裂☆

ニシオカも、四球は出すも、ヒットはゆるさぬ好投で5回まで無失点。



しかし、ホトケの打線がだらしない。

フナコシの天才的なレフトフライくらいしかイイ当たりが出ず無得点が続く。




6回、ある男の登場が1回どもを燃え上がらせる。



シャク「ふっ。やっぱり、俺抜きのホトケはこの程度か。

あんな投手相手に0行進とは笑えるぜ!

5番ドイ?プッ!

ミツイさんは勝負を捨てたんですかね?わはっははーー!」



チームの主戦でありながら、『野球より授業を優先する』大罪を犯したくせに反省の色は皆無である。

おまけに、お得意の『ダーク傲慢』キャラで登場し、

チームの『和』をかき乱す…。


いつものようにシャクに説教し、正気に戻らせようとした矢先、

意外な男が主将の想いを代弁する!



ドイ 「お前のそのキャラ、もう飽きたわ。

何回、傲慢になって、仲間の大切さを忘れて、

先頭打者ホームラン打たれて目が覚めるの?

中崎さんに叱られて気付くの?

いい加減、学習したら?読者に飽きられるよ。




いつも自分に従順だった男の思わぬ反逆に、

鳩が豆鉄砲食ったように立ちつくすシャク

怒りのあまり、殴り飛ばそうと振り上げた拳は空を切った。

ドイは既にそこにはいなかった。

ヒットを打って1塁にいたのだ。

腹いせにウツノミヤにも拳をあげようとした。

しかし、またもやシャクの拳は空を切る。

ウツノミヤもヒットで続き、2死2、3塁のチャンスができた。

シャクは気付いた。



シャク「あいつら…。しばらく見ない間に、こんなに成長してやがったのか。

俺抜きでも、ホトケの一員として立派に戦っている…。

頼もしい奴らだ。

俺も負けちゃいられねえぜ!」



仲間たちの成長に感化され、

『8日ぶり15回目の』正気に戻るシャク。

もう言葉はいらない。

フナコシの代打で打席に立つと、ボテボテのピーゴロを放ち、ドイが生還

待望の1点を手に入れた!

1回ども主力の新時代の幕開けを思わせる、素晴らしい攻撃であった。




均衡が破れ、気が楽になったホトケは、

7回にも、ニシオカのヒットミツイのタイムリドイのタイムリなどが飛び出し3得点。



シャク 「『仲間の大切さ』を思い出したので、最終回、ボクに投げさせて下さい。」


ニシオカ「一度上がったマウンドを自分から降りるもんじゃないぜシャクよ。

それは貴様とて同じだろうよ。」



こうして、後輩を押さえつけ、最終回のマウンドに立ったニシオカ

この回も3人できっちり締め、終わってみれば2安打完封、圧巻の投球内容でした☆





今日の英雄




ニシオカ(7回2安打完封)


ドイ  (4打数2安打1得点)





試合後、ドイを取り囲み、その活躍を讃える1回ども。

ドイの顔には、これまでの人生で見せたことのないであろう、

はじけんばかりの笑顔があった。

それはもう、「どうせ僕なんか」「所詮、僕は僕ですから」と

呟いていた男の顔ではなかった。

自信と生気に満ち溢れた瑞々しい表情だった。

覇気を失っていた男がみせた生命の息吹

ホトケは更に勢いづいた。

木曜は強豪りそしす戦

相手にとって不足はない。

絶対に勝利し、更なる高みを目指すことを、ここに宣言します。