紅白戦 『負け犬たちが吠えた春』
ゴミ箱にゴミを投げて入らなかったとき「おい野球部w」と言われる
野球部あるある
今年も昨年同様の横綱野球を展開し、4月を7勝1敗の快進撃。
新入生も徐々に固まり、新歓も順調に進んでいるといえる。
だが、しかし、笑顔がはじけ、明るさあふれる幹部の2回生たちとは裏腹、
この世の不幸を一身に背負う憐れな哀しき男たちがいた。
フナコシ「忘れないで夢を?こぼさないで涙?だから君は飛ぶどこまでも?
夢か…。そんなものがあった時代が懐かしい。
涙は枯れつくしてもう出ない。
俺には翼がない。飛べない。」
ナカムラ「全国屈指の進学校に入学。
友達からも親戚からも将来を嘱望された。
大学受験で周囲の期待を裏切った。
同級生たちには先を越された。
親は泣いた。
大学入学後、サークルでも周囲の期待を裏切った。エースと呼ばれていた。5番を任されていた。結局ベンチウォーマーになった。
そして…またやらかした…。鈍物として歯牙にもかけなかった後輩たちと机を並べて講義を受けることになった。
親には見捨てられた。」
サトウ「髪をあかるくしてみた。でも、心は暗いまま。真っ暗。闇。闇。闇。
週22コマ。何のために勉強しているんだろう?誰のために勉強しているのだろう?
このまま大学を卒業し、どこかの会社に就職する。
お金をもらう。何に使う?画面の向こうの彼女は出てきてくれない。
歳をとる。そして、死ぬ。周りには誰もいない。奥さんは画面の向こう…。」
…。
2年前の4月、彼らは京大のクスノキを見て、時計台を見て、小躍りした。
これから待ち受ける楽しいキャンパスライフ。
最高の環境で素晴らしい仲間たちとの知的な生活。
勉強だけじゃない。グランドでは思う存分汗を流し、青春を謳歌。
傍らにはいつもかわいい彼女…。
誰もが思い描いた。夢。理想。
誰もが同じスタートラインから、足並み揃えて走り出した。
あれから2年。
3回生になった者もいれば、なれなかった者もいる。
彼女が出来た者もいれば、できなかった者もいる。
サークルで確固たる地位を築いた者もいれば、排除された者もいる。
なぜ、こんなにも大きな差がついたのか?
わからない。
だが、これだけは言える。
彼らは負け組。負け犬。敗者。マダオ。汚物。
最近では、ホトケにも顔を出さなくなった3人。
野球など出来ようはずもない。足を引っ張るかもしれない。迷惑をかけるかもしれない。
頭をよぎる負の感情…。
そんな彼らを不憫に思ったのだろうか。帝王が彼らに語りかける。
シャク「野球したかったんでしょ?あんたらの死に場所を用意しましたよ。
紅白戦で我々2回生の練習相手になってください。
もっとも、あんたらじゃ練習にもならないかもしれないので、力のある1回生たちを先輩チームに入れてあげますよ!」
フナコシ「どうもありがとうございます。シャクさんの下々の者を思いやる御心遣いには感謝感激です。」
ナカムラ「さすがは帝王のシャクさん。王たるに相応しい資質を兼ね備えてますね。」
後輩に嘲りの言葉を浴びせられ、冷ややかな眼差しで見られようとも、笑顔でゴマをする先輩二人。
なぜ吠えない?
なぜ拳を握りしめて悔しがらない?
染みついた負け犬根性。哀しき習性。
彼らの目に再び光は宿るのか?
それとも、負け犬のまま終わるのか?
2回生 対 3回生+1回生
久しぶりのホトケ紅白戦が始まった。
2回生軍先攻の初回、好調な彼らのバットが猛威を奮う!!!
カシワギのヒット、ドイの三振、シャクのヒットなどで、たちまちチャンスを作ると、
モリ 「英語なんて言葉なんだ!こんなものやれば誰だってできるようになる!!!」
グワシャーーーーーーン!!!
東進の安河内ばりの情熱ツーベースを放つと、
続くは 見た目は小沢一郎 中身は男性器の塊 ウツノミヤ。
ウツノミヤ「俺は無罪。大手を振って町を歩ける。」
ガギーーーーーーーーーーーーン!
自らの無罪を祝うかのような下品なタイムリーを放つ!!!
こうして、なんやかんやで先発ニシオカがいきなり4点を奪われる嫌な展開。
反撃したい先輩軍もニシオカ・ミツイ・ナカムラ・キムラの散発4安打に沈黙し前半を終える…。
そして、5回、先頭はフナコシ。
マキノ「あんたらが僕らの二軍なんじゃないですか?へへ。」
ヤマグチ 「老害はグランドの隅でペタングでもしててくださいよ。」
比較的先輩を尊敬していたであろう者たちにさえなめられる体たらく。
フナコシ「やっぱり俺に野球なんて無理や。家に帰って一人でクラムチャウダーと鮭のムニエル作って食べよう。一緒に食べてくれる友達も家族も俺にはいない。」
母がパチンコに集中できる環境を作るため、実家を追い出され、下宿を始めたフナコシ。
生来の寂しがり屋がたたり、ますます塞ぎ込む毎日。
バットで3回空を切って、惨めにベンチに帰ろう。
ネガティブな感情が支配する中、人一倍彼に厳しく接していた男が声援を送る!
ニシオカ「なに言ってるんだフナコシ。この前食べさせてもらった、おまえのクラムチャウダーうまかったぜ。なんつーか、気品に満ちたクラムチャウダーっつーか、 たとえると、アルプスのハープを弾くお姫様が飲むような味っつーか、 スゲーさわやかなんだよ… 3日間砂漠をうろついて、初めて飲むクラムチャウダーっつーかよぉーっ」
フナコシ「ニシオカ…。おまえ…。」
フナコシのやることなすこと「ムカつく」と言って牙をむいてきたニシオカ。
そんな彼がクラムチャウダーを絶賛してくれた…。
言葉では言い表せない感動がフナコシを包み込む。
そう、フナコシは一人ではなかった。
声援を送ってくれる仲間がいる。一緒に野球をしてくれる仲間がいる。
それだけで本当に幸せなことじゃないか。
フナコシは固く握りしめたバットを振りぬいた。
キーーーーーーーーーーン!!!
フナコシのバットから放たれたクラムチャウダー色のボールは右中間を破るスリーベースに!
そして、希望に満ち溢れた1回生ニシムラくんがタイムリーを放ち1点を返すと、ニシオカも続き、1,2塁のチャンス。
ここで迎えるは キムラ…。
同回生が女学生との交流を絶望する中、甘いマスクと腐りきった性根の隠蔽で、何人ものカワイイ女の子を毒牙にかけてきたキムラ。
いわゆる勝ち組のこの男も、最近では逆境の淵に立たされている。
そう、世間がキムラの不貞を断罪したのだ。
同時に二人の善良な女性に「結婚しよう」とプロポーズしたキムラ。
その先に待ち受けていた当然の帰結。
最悪の修羅場。
キムラは批判の矢面に立たされた。
キムラ「ほ…本当にすいませんでした!!!」
泣きじゃくるキムラ。
ミツイ「安心しろ。お前がプロポーズした女の一人を俺に、もう一人をサトウにあてがってくれ。これで全てが丸く収まる。」
サトウ「ふっ。ありがたく思えよ。2−1−1=0や。消えてなくなったやろ!」
キムラ「ヨッシャオラ―!!!」
重荷が消えた。揉め事は解決した。
キムラは軽くなったバットを握りしめ、あらん限りの力を振り絞りフルスイングした。
グワシャーーーーーーン!!!
でたーーー!!!
キムラの第一号同点スリーランホームラン
(赤星憲広まであと2本)
歓喜の雄たけびをあげる1回生・3回生連合軍。
こうして、キムラの二股問題は丸く収まり、試合は同点で延長戦を迎えるという最高の結果となった。
しかし、奇跡的に同点に追いついたとはいえ、相手はノリに乗った二回生軍。
延長9回表、シャクのヒットとモリのツーベース、ウツノミヤのサードゴロでたちまち勝ち越されてしまう…
サトウ 「ここまで来たんやし絶対勝とうぜ!」
人生に疲弊していた負け犬どもの姿は、もうここにはない。
野球を通じて思い出した、あの日の夢・希望。
諦めるにはまだ早い。
再び立ち上がったサトウ・フナコシ。
必死で声援を送る。
その声に応えるかのように出塁するニシオカ・キムラ。
3回生が一つになっている。
一年前の幹部学年だったあの頃のように。
しかし、彼らは忘れていた。
負け犬はもう一匹いたことを。
そして、その犬は最高にタチが悪いということを。
度重なる回復不能な挫折の数々。
裏切り続けた期待。
犬は居直りかえっていた。開き直っていた。
ナカムラ「ノーアウト一二塁か。なんかおもろそうやしバントしたろ。成功したら「ほぉーおまえ意識たかいなぁー」って褒められるやろ。ヒヒ。」
ゴキーーン
案の定、ふらふらと上がった小飛球。
ダダダダダ
パシッ
カシワギ「どっせぇえええいいい!!!」
ゲッツー完成!!!
ナカムラ「やってもぉたーー!!!1か月ぶり24度目の『周囲からの期待を裏切ってもぉたーーー!!!』」
こうして、ナカムラのバント失敗により、ノーアウト1、2塁→ツーアウト1塁となり万事休す。
2回生軍が実力を見せつけ、見事勝利を収めました。
今日の英雄
モリ 4安打
キムラ スリーランホームラン
ニシムラ 3安打
試合後、ナカムラを取り囲み罵声を浴びせかける面々。
ドイ 「兄さんキモイ!」
ニシオカ「マダオ。カエレ!」
ナカムラ「おぉー。なんとでも言えや!月曜日のマジシャンズ戦、ワシも行くさかい、がんばろうやー。」
最悪のミスを犯しても飄々としたマダオの態度。
おまけに、前回負けたマジシャンズ戦に参加すると言い張る厚顔無恥…。
マダオよ!恥を知れ!
そして、試合にはあんまり来ないでくれ!!!